いつか花になるものたち
自らの輪で首を吊る天使 大切なものは雲に預けてあるから
春の夜に生まれ変わるため冬の終わりに死ぬことにしました
傘を差すときわたしは完全な孤独になり恋人をなくした悲劇のヒロインになる
もう二度と会うことない人たちの顔の並んだアルバムをもらう
追悼より安価なそれを抱えて幽霊は街をさまよう愛を探して
夢で見た人はもう二度と会えない気がする
砂浜を踏む音をあなたは泣き声だと言うから
下手くそな紙ヒコーキが目の前に落ちてきたので拾いました
目が合った瞬間に目尻に小さな羽が生えてきた
目を見ればすべて伝わるはずなのに好きだと声に出したくなる
希望的追悼の夜
ドアを開けると彼女がいた。それはいつも突然の訪問だった。深夜の二時に叩き起こされることもあったし、僕が大学へ行く準備をしている際に来ることもあった。ドアを開けると彼女は僕の制止も聞かずにずかずかと上がり込んで、そのままの格好で僕のベッドの上にダイブした。僕はそのたびに自分の城を荒らされるような潔癖的な不快感を覚えた。しかし彼女を拒むことはできなかったし、出ていってくれと追いだすこともできなかった。そこに下心と贖罪のような感情があったことは否定できない。
夜の九時というのはとても良心的な時間だった。僕にとって夜の九時という時間は眠るための準備があらかた終了する時間で、いつもベッドに入って静かに一人で本を読んでいた。その時間を他人によって侵害されるのは酷く不快だが、深夜二時にチャイムを何度もならされるよりは殺人的でない。
「生理がきちゃったの。だから何もかもがめんどくさくなって帰ってきちゃった」
と彼女はベッドの上でうつぶせになって言った。翻ったスカートからほっそりとした二本の素足がのぞいた。それから彼女をは膝を曲げて、甲殻類の脱皮のように靴下を脱いだ。僕はひょいっと投げられた水色の靴下の軌跡を目で追う。彼女の一挙手一投足が僕の心を波立たせた。そんなことは気にもせず、彼女は僕の布団の中にもぐりこみ、大きく息を吐きだす。僕の熱がもうそこにないことを願った。
ファッションで死のう
形の良い愛ばかりが選ばれてどこにも行けない大きく歪な愛
ねえ、今日の私はもうすぐ死ぬのよ。そんなこと考えたことある? 今日と明日は繋がっているようで繋がっていないの。今日の私と明日の私じゃ別人なのよ。わかる? 私には一貫性というものがまるでないの。今の私が思っていることと明日の私が考えてることは全然違うし、今日の私が可愛いかったら明日の私も可愛いわけじゃない。それなのに、今日の私が生理だったら明日の私はばっちり生理だし、今日の私が死にたかったら明日の私は文句なしに死にたいのよ
包丁を擬人化したらどっちに目がつく、抱きしめられる?
憂鬱は埃のようにキラキラと時折光って笑いかける
首吊りは酷い死に方だよと死んだ後も見え方を気にする
生きづらくなかったらさ、それ、生きてないでしょ
僕が彼女に会ったのはまさにモラトリアムというような空白の時期だった。世界はどんどん鋭さを増し、来週にはこの街にも雪が降るという予報が出ている。木々はしっかり葉を落としきり、空はいつもどこかくすんでいる。そんな冬の日に僕は彼女に会った。退屈していたのだ。色のない世界に。このまま死んでしまうの悪くないかもしれない。大学前の横断歩道は何台もの車がスピードを緩めず次々と横切っていくのが見えた。彼女は流れゆく時間をすべて無視してそこに立っていた。腕を組んで、そこにあるすべてを見下すようにスマホを見ている。
もう何十年もそこに立っているかのように思えた。絵画のように、何かを象徴的に語っている。僕が隣に並んでも気づいていないようだった。時折控えめに色の塗られた唇から白い息が漏れた
私を殺せ、私を殺せ、殺せばもう何も怖くない、何も傷つけない
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