夜道をイヤホンを外して歩いた。普段はマスクと同じような感覚でイヤホンをつけているため、夜だろうと早朝だろうと私の周りでは音楽が流れている。

私は曲を聞くというより耳を塞ぐことを主な目的としてイヤホンを使用していて、電車内であったり、街中のような騒がしい場所ではイヤホンなしではそわそわと落ち着かないくらいだった。

今日たまたまイヤホンを外そうと思った理由は単純で感傷に浸りたかったからだった。太陽やLED電球の下で感傷に浸れるほど私の感性は盲目ではない。つまり人気のない田舎の夜道というのは私の今日の気分にぴったりな場所だった。

駅前の通りから脇道に逸れ、まだ明かりのついた、しかし寂れた小さな商店街を抜ける。開かれた私の耳を通して、一匹の鈴虫の声が聞こえた。建設中のアパートの向こうにある空き地で鳴いているようだった。

つい最近できた新築のアパートに明かりはつけられていない。夜道といってもまだ18時前後のため家主は留守なのだろう。ベランダに干された洗濯物が風のない夜に浮いているように見えた。街灯の光には羽虫が集っていた。

「駐車券を入れてください」

コインパーキングからそんな機械音声が聞こえ、すぐに道路をゆっくりと撫でるような低いエンジン音と共に車が顔を出した。ウインカー出し左折した車のテールランプが蛍のように虚しくぼんやりと光っていた。

夜には許しの空気が流れている。色んな感覚を曖昧にぼかして、外界と内面の境界をほんの少しだけ見えなくさせる。

すべてが眠ったように静けさを纏っている。しかしそう感じるのと同時に、あの夜になったら動き出すおもちゃたちのみたいに私が通り過ぎるのを息を殺して待っているような雰囲気も感じた。

明るいうちでは馬鹿にされてしまうような私の感傷も夜は許してくれる。そんな夜が私は好きで頼りすぎてしまう。いつか夜に愛想を尽かされて追い出されてしまわぬうちに、私は少しでも自立しなければと思う。