「夏夜」

私はあなたの体温を吸って咲いた花。淡い色になる前に口に入れて咀嚼して。あなたは欠け落ちた星につけられた小指の傷。色のついた呼吸が傷口から侵略を始める。弾けた花火を眺めるふたり。夏が湿らせて伸びた前髪。


「夢と幽霊」

寂しくて気が狂いそうな夜はいかがお過ごしでしょうか。暑がりで、不幸症な私ですが枯れない花を買いました。不安定な蛍光灯が照らす部屋の中心に置かれたその花の名は幽霊。いつかの夢に見たあなたの横顔は火薬の震わす空気に溶けている。ぼやけたあなたを笑わす私は夏の羽虫。


「果実」

優しさが割ったさくらんぼ。あなたに隠れてわざと飲み込んだ種。甘いねと言われて、甘いねと返す私。優しさが割った奇数のぶどうの余り。剥かれた皮、吐き出された種。甘いねと言われて、甘いねと返す私。


「夏休み戦争」

爆発した手榴弾は私の横の硝子を割り、破片は私へと突き刺さった。奥深くまで侵入してしまったらしく、外から取り除くことは不可能だった。硝子の透明さは私の中に埋もれ、血みどろの空洞になった。穴の空いた水風船だけが武器だった。色のないカレンダーが私の夏休み。


「羊」

脱色した羊が眠る歌。空を飛べない羊が歩く道。羊が直列に繋がる回路の夢。黒い羊を数える仕事。刈られた羊毛の行方。眠れない夜に数えられた羊が休む小屋。