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君は完璧なものなどないからこの世界は美しいのだと言ったね。だから生きる価値があるのだと、だから生きなければけないのだと。完璧な世界にどうして私たちが生きていけるだけの余剰があるの。私たちは世界の余剰に住んで生きているのよ。その余剰を埋めようとする行為が生きるということなのよ。それがわからないで、どうして生きていけるの。
僕は消えてしまいたいんだと、ある日の夕方、君に打ち明けた。でもそれは正確ではなかったかもしれない。僕は、僕の醜い部分だけが消えてなくなればいいと思っているんだ。そうすればきっと僕の大半は消えることができるだろう。そしてそのあとにいったい何が残るのか。そういうことをよく考えるんだ。
何も残らない、と君は言うだろうね。僕も君も何も残ることはない。死ぬということはそういうことなのだと。だから私たちは生きているのよ、と再三繰り返すのだろうね。
例えば僕たちが死んだあと完璧に消えることができたなら、それは完璧な世界があることの証明にならないだろうか。つまり僕たちは死ぬことで完璧な世界へと行けるのだと、少なくとも僕はそう信じていた。君が死ぬまでは。
君が死んで、君が残していったものを見て、触れて、感じて、完璧に消えることなど不可能なのだと知ったよ。君が残していったものは、美しいものばかりではなかった。君の血や肉や内臓はすべて薄汚い灰へと変わったし、残った骨は純白とは言い難かった。
ねえ、この感情も君が残していったものなのだろうか。僕はもう死ぬことすらできなくなったよ。君をこれ以上失うことが怖いんだ。完璧さなどとは程遠い記憶や感情が、僕のなかで海底の泡のように現れては消えていく。
ねえ、君はいつか僕のことが好きだと言ってくれたね。そして「あなたも私のことが好きでしょう」と同意を求めるでも、明確な回答を求めるでもなく、ただ当たり前の事実のように言ったね。
僕はそれをどうしても認められなかったんだ。君が僕を好きだということを、そして僕が君を好きだということを。でも今なら認めることができるし、君の言いたかったこともわかる気がする。つまり僕らは完璧ではないと言いたかったんだね。そして完璧であることの価値を、君は僕が君を好きだという事実を用いて否定したんだね。
君がいなくなって空いた病室のベッドには、もうすでに別の人が眠っているらしいよ。君はそのことに対して何か思うのだろうか。
ねえ、完璧とはきっと一瞬の出来事なんじゃないだろうか。僕らが感知できないくらいの刹那。例えばそれはまばたきの間に現れるのかもしれない。もしくはそれが現れるのは過去や未来なのかもしれない。ならばそれは今を生きる僕たちでは一生手に入れることができないものなのだろうね。
君がいなくなった白くて清潔なベッドを見ながら僕はそんなことを思ったんだ。きっと僕らはそんなふうに損ない続ける世界で生きていくんだね。それを君は僕に教えようとしてくれていたんだね。