【短編小説】ブラックホール
友達のエリがブラックホールを見つけた、と私に言ってきた。高校生にもなってどうしてそんなことが言えるのだろうと思った。でも実際に見てみるとそれはブラックホールとしか言いようがなかった。
彼女の家の裏には小さな林があって、ブラックホールはその林の中心にあった。人ひとりがぎりぎり入れるくらいの黒い靄状の穴が地面に埋め込まれているみたいだった。
「見てて」
とエリは言い、木の枝や葉っぱをブラックホールの中に足で蹴り入れた。木の枝や葉っぱは吸い込まれるように消えた。
「すごい。どうなってんのこれ?」
「分からない。確かめてみようよ」
彼女はそう言って、私にスコップを渡してきた。どうやらブラックホールの周りをスコップで掘って見るらしい。
ブラックホールの周りを30センチほど掘り下げてみると、ブラックホールの位置も30センチほど沈んだ。
「不思議だね」
と言い合ってその日は帰った。帰り際にエリが「今度はいらない物を持ってきて捨てみよう」と言った。
次の日、私は使わなくなった中学の頃の教科書とノートを持ってきた。エリは何やら大きなダンボールに座って私を待っていた。
「よし、じゃあ捨ててみよう」
彼女はそう言って、私に先に捨てるように促した。
「大丈夫かな。なんかバチが当たりそう」
「どうして?」
「いや、何となくそんな気がしただけ」
私は縛られた教科書たちをブラックホールに投げ入れた。教科書は音も光もなく消えた。
「おお!」
エリは興味深そうに穴をのぞいた。そんなに身を乗り出したら、落ちてしまうんじゃないかと私は心配した。それから彼女は座っていたダンボールを持ち上げてブラックホールに投げた。どう見ても穴よりダンボールの方が大きいのに、教科書と同じように音も光もなく消えた。
「すごい発見だよ! ノーベル賞取れるかも」
そう言う彼女の瞳は真っ黒な穴を見ているとは思えないほど輝いていた。
その日から私はエリに付き合って色んな物をブラックホールに投げ入れた。使わなくなった机や椅子、バケツいっぱいの水、カエルやカブトムシなど様々な物がブラックホールに消えていった。
そんなことを何日か続けたある日、神妙な面持ちでエリが私に言った。
「吸い込まれた物たちはどこに行ったんだろう?」
「バラバラの塵になってるんじゃないの?」
と私は答えた。当時の私がブラックホールについて知っている知識はそんなものだった。
「確かめてみたいな」
と彼女は言った。私はまさか穴の中に飛び込むなんてことはしないだろうと、適当に返事をしてその日は帰った。
その次の日、エリは行方不明になった。私が慌てて彼女の家の裏にある林へ行くと、ブラックホールはなくなっていた。迷うはずがない。念の為、林の中を何周も探し回ったけどブラックホールは見つからなかった。エリと一緒にあの真っ黒な穴も消えてしまった。
その日から約1年後に、真っ黒に日焼けしたエリが何食わぬ顔をして私の前に現れたときは腰を抜かしてしばらく歩けなくなった。