自己紹介を書こうと何度もしているのだけど、いつも上手くいかない。私は秘密主義で匿名的でいたくて、それでも誰かに知ってほしいという矛盾を抱えている。

年齢も性別も隠しているつもりはないのだけど、明言はしたくない。それらを除いて私に開示できる情報と言ったら、つい先日大学を卒業したことくらい。卒業式には行かなかったので大学の事務課に卒業証書とかいろいろを取りに行った。

その日は雨だった。私が外に出るときは決まって雨で、しょっちゅう傘をさしてる。雨に濡れるのは嫌いだけど、傘をさすのは嫌いじゃない。いつまで経っても雨の日というのはどこか非日常感がある。傘をさすと周囲との境界はぐっと狭まり、私の世界はずっと強固なものになる。

雨の日の電車は床が汚れているし、どこか湿っているから嫌い。通勤の時間からは外れているはずなのに人が多くて、世間は春休みなのかもしれないと思った。スーツケースを持った家族連れや大学生らしき人が数人いた。

電車の中ではずっと歌集を読んでいて、短歌というものの表現の幅広さに終始圧倒されていた。短歌は言葉の強みを存分に生かした表現方法だと思う。映像にはない言葉の強みって比喩だと私は思っていて、短歌は上手く言えないんだけど、一息ですごく遠くまで飛べる。

映像って地続きで現実的なものが多いと思うんだけど、短歌は例えば自分の家から月までをひょいっと飛んでいける。

そんなことを考えながら最寄り駅で降りて、まだ雨降ってるなぁなんて思う。電車で一時間くらいの距離じゃ天気って変わらない。うちの田舎とこの都会が電車一本で繋がっているのが未だに不思議に思う。

ゲームの世界で電車に乗るとロードが入って次の街に行くことが多いと思うんだけど、その感覚に近い。世界はオープンワールドじゃなくて街ごと、ステージごとに作られているような気がしてしまう。この前新宿に行ったとき、徒歩で地名や周囲の景色がどんどん変わっていくのが面白かった。

小さなキャンパスなので大学にはほとんど人がいなかった。それでも大学の職員の人は忙しそうに働いていて、何をしてるんだろうかと思いながら窓口に行った。最近自分が就職するからか人々の仕事に目が行くようになった。社会には本当に色んな仕事がある。

要件を言うとすぐに対応してくれた。事務的な手続きみたいなことが私は結構苦手で、いつももしわからないことを要求されたらどうしようと不安になる。もちろんそんなことはなくて、名前を確認して、記念品やらなんやらを貰って終わりだった。

「おめでとうございます」くらい言われるのかなと思ったけどそんなものはなかった。事務的な卒業証書授与。

小さくて、それでいて聞き取りやすい声でゆっくり言葉を話す人だった。雨だと体内のテンポが速くなってしまう気がする。何というか雨に濡れないように急いだり、気分が沈んで少しイラついてしまったり。だからかその人の話し方がとても印象的だった。なんだかメトロノームみたいに、釣られて私のテンポもゆっくりになった気がした。

人生ゆっくり生きていきたいよなぁなんて思って、大学名が書かれた紙袋を抱えて駅まで歩いた。なるべく信号に止まるように歩いて、小さな水たまりはひょいと飛び越え、大きいものは迂回する。ある私の雨の日のことでした。

この文章を自己紹介のひとつとさせてください。マガジンにも自己紹介になりそうなものがあるので、もし気になった方はそちらも読んでくださるとうれしいです。

マシュマロ


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